絵画教室の持ち物や結婚式の準備で「イーゼル」と言われて、何を指すのか、なぜそう呼ぶのかが分からない。イーゼルとは、絵を描くときにキャンバスや画板を立てて支える台のことで、日本語では画架(がか)と呼びます。語源はオランダ語の「ezel(エゼル)」、意味は「ロバ」です。荷物を背に載せるロバと、絵を載せて立つ台を重ねた呼び名で、英語のeaselも同じ言葉から来ています。言葉の意味が分かれば、教室で買う1台も、式場に置く1台も、迷わず選べます。
イーゼルは絵を立てて支える台、日本語では画架
まず言葉の意味からです。イーゼルは、絵を描くときにキャンバスや画板を描きやすい高さと角度に固定する道具で、辞書では「絵を描くときにカンバスを載せる台。画架」と説明されています。武蔵野美術大学の造形ファイルでも、支持体やカルトンを固定する器具と定義しています。
基本の形は3本脚です。絵の受け台を水平に支える前の2本と、後ろに引いて傾きを変える1本で立ちます。受け台(棚)の高さをねじやほぞで変えられるので、座って描く高さから立って描く高さまで1台で調整できます。
描く道具としてだけでなく、描き上げた絵や写真、店の黒板、結婚式のウェルカムボードを立てて見せる用途でも使われます。画材店で「イーゼル」と言えば描く台を指し、雑貨店や式場で言えば飾る台を指すことが多いです。この2つは作りが違うので、後の見出しで分けて説明します。
語源はラテン語のロバ、オランダ語を経て英語へ
イーゼルという言葉は、動物のロバから来ています。ラテン語のasinus(ロバ)が古いオランダ語のesel、今のオランダ語のezelになり、1590年代に英語へ入ってeaselになったというのが、英語の語源辞典の説明です。オランダ語では今も、絵の台を「schildersezel(画家のロバ)」と呼びます。
なぜロバなのかは、使い方を見ると分かります。ロバは荷物を背に載せて運ぶ動物で、キャンバスを載せて立つ台と役目が同じだからです。ドイツ語でもロバはEselで、フランス語のchevalet、イタリア語のcavallettoはどちらも「小さな馬」の意味で絵の台を指します。ヨーロッパの言葉では、絵を載せる台に家畜の名前を付けるのが共通のやり方でした。
日本語では、英語のeaselをそのまま読んだ「イーゼル」と、訳語の「画架」の2つがあります。国語辞典では、尾崎紅葉が1891年に書いた『むき玉子』にイーゼルの使用例が載っており、明治の西洋画とともに入った言葉です。今は画材店でも教室でも、画架よりイーゼルの呼び名のほうが通じます。
古代エジプトにあった台が19世紀に今の形になった
イーゼルの歴史は、言葉より古いです。古代エジプトのレリーフにすでに似た台が描かれ、1世紀にはローマの博物学者プリニウスが台に載せた大きな板絵に触れています。絵を立てて描くやり方そのものは、2000年以上前からありました。
今の3本脚の形にほぼ近づいたのは19世紀です。この時期にチューブ入りの絵の具が出て、絵の具を外に持ち出せるようになりました。すると外で描くための、たためて軽い野外用のイーゼルが広まりました。
家で使う木製の3本脚、大きな絵を据え置くH型、外へ持ち出す折りたたみ式、机に置く卓上型。今ある種類は、この19世紀の広がりの中で分かれたものです。次の見出しで、それぞれの違いを見ます。
種類は5つ、三脚・H型・卓上・野外・展示用
画材店に並ぶイーゼルは、形と使う場所で5つに分かれます。家で描くなら木製の三脚型、大きな絵ならH型、机なら卓上型、外なら野外用、飾るだけなら展示用です。迷ったら、描く場所と絵の大きさの2つで決めれば外れません。
| 種類 | 形と重さ | 向く絵の大きさ | 向く場面 |
|---|---|---|---|
| 三脚型(室内用) | 木製のAの字。前2本と後ろ1本の脚で床に3点で立つ。3〜6kg | F10〜F30号 | 家で立って描く。教室の定番。たたむと厚さ15cmほどで壁に寄せられる |
| H型(アトリエ用) | Hの字の太い枠。床に4点で立つ。10kg以上、キャスター付きもある | F50号以上 | 動かさず据え置く。角度と高さを細かく変えたい人 |
| 卓上型 | 高さ30〜50cmの小さな三脚か折りたたみ板。1kg前後 | はがき〜F4号 | 机で水彩や色鉛筆。描いた絵をそのまま飾る |
| 野外用(スケッチ用) | アルミの伸び縮みする三脚。1〜2kg、袋に入る | F6〜F10号 | 写生会、旅先、教室への持ち運び |
| 展示用 | 細い木製やアイアン。30〜160cm | ボードや額 | ウェルカムボード、店の黒板、案内板 |
三脚型は安くて組み立てが簡単で、たたんで15cmほどの隙間にしまえます。ただし大きなキャンバスを載せるとバランスを崩すので、F30号を超えるならH型です。H型は床に4点で立つのでぐらつかず、正確さがいるデッサンや模写に向きます。
野外用のアルミ三脚は軽いぶん風に弱く、脚に荷物を掛けて重しにします。卓上型は水彩を寝かせ気味に描く人と、小さな絵を飾りたい人の両方に使えます。
高さは座るなら120cm、立つなら150cm以上
種類の次は高さです。椅子に座って描くなら120cm前後、立って描くなら150cm以上、F50号以上の大作なら180cm前後が目安で、デッサンの解説サイトでも同じ数字が示されています。高さが足りないと、腰をかがめて描くことになり、形が狂います。
- 高さ90cm前後:床に近い所に座って描く。小さな絵
- 高さ120cm前後:普通の椅子に座って描く。F15号、木炭紙の大きさまで
- 高さ150cm前後:立って描くときの最低の高さ。F20〜F30号
- 高さ180cm前後:立って大きな絵を描く。F50号以上
木製の三脚型は、受け台を下げれば座って、上げれば立って描けます。1台で両方をまかなうなら、高さ150cm以上の物を選び、受け台を下げて座る使い方にします。逆は無理なので、迷ったら高いほうです。
油絵は油絵用の重いイーゼルがあると楽ですが、値段が高いので、教室でも家でもデッサン用の木製三脚型で代用する人がほとんどです。最初の1台は、木製の三脚型で高さ150cm以上、F30号まで載る物にしておけば、水彩からアクリル、油絵まで困りません。
置き方は画面の中心を目より少し下に
イーゼルは置き方で描きやすさが変わります。画面の中心が目の高さより少し下に来る高さにして、腕を軽く曲げて届く距離に置くのが、武蔵野美術大学の造形ファイルにある基本です。この位置なら、体を動かさずに目だけで絵とモチーフを見比べられます。
- 受け台の高さを、画面の中心が目より少し下になるまで上げる
- 後ろの脚を引いて、画面をほぼ垂直にする。水彩は少し寝かせて絵の具が垂れない程度に
- 右利きならモチーフが左45度、左利きなら右45度に見える向きに置く
- 光は利き手と反対側から入れ、手の影が画面に落ちないようにする
- 床に3本の脚がすべて付いているかを確かめる
角度は、視線が画面と直角に交わるようにします。斜めに立てかけると、上のほうが縮んで見えて、描いた形が下から見たときに狂います。立てかけるだけの安いタイプはこの狂いが出やすいので、キャンバスを上下から挟んで固定できる物のほうが正確です。
飾る用と描く用は別物、決め手は号数と場所
ここまで読んだら、自分に要るイーゼルを決めます。絵を描くなら「画材用」と書かれた物を号数と描く場所で選び、ウェルカムボードや黒板を立てるなら展示用で足ります。この2つを取り違えるのが、買ってから困る一番多い原因です。
展示用は脚が細く、見た目を軽く作ってあります。筆を押しつける力に耐えないので、絵を描くと揺れます。逆に画材用は丈夫なぶん重く、式場や店先に置くには見た目が重いです。用途が飾るだけなら、1,000円台の展示用で十分です。
- 描くか、飾るか。飾るだけなら展示用
- 描く絵の号数。F4号までは卓上、F30号までは三脚型、それ以上はH型
- 描く場所。机なら卓上、家で立つなら木製三脚型、外なら野外用アルミ
この3つに答えれば、種類は1つに絞れます。迷う組み合わせは「机でも床でも描きたい」で、その場合は卓上型と木製三脚型の2台を持つのが結局いちばん安く済みます。まずは描きたいキャンバスの号数を決めてから、画材店の棚か商品ページの「F〇号まで」の表示を見てください。
元々は充電式のポータブル電源や電動工具分野の専門アドバイザー。現在はキッチン家電や生活家電、カー用品まで幅広く担当しています。「毎日使うものほど、扱いやすさで選ぶ」が持論。
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