学校で使っていた水彩用の筆でアクリル絵の具を塗ったら、毛が開いたまま固まってしまった。アクリル絵の具を始めた人が最初につまずくのがここです。
原因は筆の毛の材質と、アクリル絵の具が乾くと水に溶けなくなる性質にあります。読み終わるころには、手持ちの筆をどちらに使うか決められて、固まった筆の戻し方も分かりますよ。
■アクリル絵の具と水彩絵の具は乾いたあとが違う
筆の話に入る前に、絵の具そのものの違いを押さえておきましょう。ここが分かると、筆の使い分けの理由が全部つながります。
どちらも色のもとになる顔料は同じようなものです。違うのは顔料を紙にくっつける成分で、アクリル絵の具はアクリル樹脂、水彩絵の具はアラビアゴムが使われています。
アクリル樹脂は乾くと水に溶けません。薄く塗ったものなら15分ほどで乾き、乾いたあとは水をかけても色が動かなくなります。
アラビアゴムは乾いたあとも水に溶けます。だから水彩絵の具は、乾いてから水を含ませた筆でなでると、また色がにじんで直せます。
描ける素材も違います。アクリル絵の具は紙のほかにキャンバス、木、布、石にも描けますが、水彩絵の具は紙の上だけです。
この「乾くと溶けない」性質が、筆にもそのまま当てはまります。筆の根元で乾いたアクリル絵の具は、水で洗っても落ちません。
■アクリル用の筆はナイロンで水彩用の筆は柔らかい毛
画材店で「アクリル用」と書かれた筆は、ほとんどがナイロンなどの合成繊維です。アクリル用の筆は毛にコシがあって絵の具をよく含み、水彩用の筆は柔らかい毛で水をたっぷり含みます。
アクリル絵の具はチューブから出したままだと粘り気があります。柔らかい毛だと絵の具の重さに負けて広がらないので、コシのあるナイロン毛が向いています。
水彩絵の具は水で薄めて使うので、筆に求めるのは水を含む量です。リスやヤギ、イタチなどの天然毛や、それに似せた柔らかい合成毛が使われます。
形はどちらも丸筆(ラウンド)が基本です。アクリルは広い面を塗る平筆や刷毛、水彩は先がとがって水含みのよいキャッツタンもよく使われます。
| 項目 | アクリル用の筆 | 水彩用の筆 |
|---|---|---|
| 毛の材質 | ナイロンなどの合成繊維 | 天然毛か柔らかい合成毛 |
| 毛のコシ | 強い | 弱い |
| 水を含む量 | 少なめ | 多い |
| 向く絵の具の状態 | 濃いまま塗る厚塗り | 水で薄めた状態 |
| 乾いた絵の具 | 根元で固まると取れにくい | 水でほぐれる |
店頭で迷ったら、毛を指で軽く押してみてください。押し返してくるのがアクリル向き、すぐに寝てしまうのが水彩向きです。
■水彩用の筆でもアクリルは塗れるが乾く前に洗うのが条件
手持ちの水彩用の筆でアクリル絵の具を塗ること自体はできます。世界堂の画材特集でも、ナイロン筆のほかに水彩用の軟毛や日本画用の筆も使えると説明されています。
ただし条件があります。アクリル絵の具は薄塗りなら15分ほどで乾くので、塗り終えた筆を机に置いたままにすると根元から固まります。
柔らかい天然毛は一度固まると、ほぐしても毛先がそろわなくなりがちです。気に入っている水彩用の筆は、アクリルには使わないほうが無難ですよ。
逆に、アクリル用のナイロン筆で水彩絵の具を描くこともできます。ただ水を含む量が少なめなので、広い面を塗るとかすれやすく、細かいにじみも出しにくいです。
どちらも「描けないわけではないが、本来の持ち味が出ない」と考えておきましょう。
■使い回すならナイロン筆をアクリル専用にする
結論から書くと、使い回すのはナイロン筆だけにして、それをアクリル専用と決めるのがいちばん筆を傷めません。
理由は2つあります。ナイロン毛は固まっても付け置きで戻しやすいこと、水彩用の天然毛は戻しにくいことです。
手持ちの筆の分け方は次のとおりです。
- 軸やパッケージに「ナイロン」「アクリル用」とある筆は、アクリル用にする。
- 「水彩用」「セーブル」「リス」など天然毛の表記がある筆は、水彩用に残す。
- 表記が分からない筆は水彩用に回し、アクリルには使わない。
ナイロン筆でも、水彩に使いたい1本があるなら、それはアクリルに使わないでください。一度アクリルで使った筆は根元にわずかに樹脂が残り、水彩のときに毛先がまとまりにくくなります。
毛の色で見分けようとする人もいますが、白い毛でも天然毛のことがあります。軸の表記を優先しましょう。
■最初の筆はアクリル用3本と水彩用2本で足りる
両方そろえると本数が増えそうで、手が止まりますよね。最初はアクリル用にナイロンの丸筆を2本と刷毛を1本、水彩用に柔らかい毛の丸筆を太めと細めで2本あれば十分です。
アクリル用の丸筆は、世界堂の画材特集でも6号から10号を数本と、広い面や下塗り用の刷毛が1本あると便利だとされています。まずは6号と10号の2本から始めましょう。
机の上で描くなら、軸の短い短軸の筆のほうが取り回しがラクです。イーゼルに立てて描くなら長軸でも構いません。
水彩用は、太めの丸筆で空や背景を塗り、細めの丸筆で輪郭や細部を描きます。号数はメーカーで太さの基準が違うので、店頭で穂先の大きさを見て決めるのが確実です。
買い足すのは、この5本で描いてみて足りない場面が出てからで遅くありません。細い線がほしくなったら面相筆、かすれを出したいなら豚毛の筆を1本ずつ足していきます。
■アクリルの筆は描いている間ずっと水につけておく
アクリル用の筆を長持ちさせるいちばんの方法は、描いている間は使っていない筆を水につけたままにして、描き終わったらその日のうちに洗うことです。
世界堂の画材特集でも、使った筆を放置するとそのまま固まるので、水へ浸けたままの状態にして制作後に洗い流すよう説明されています。
洗い方は次の順です。
- 描き終わったら、すぐに筆洗器の水で絵の具を落とす。
- ぬるま湯で根元をもみ洗いして、水が濁らなくなるまで繰り返す。
- 穂先を指で整えて、寝かせるか吊るして乾かす。
それでも固まってしまったら、画材店で売っている筆洗液に一晩つけてから洗ってください。一晩付け置きして洗うと再生できると、同じ特集に書かれています。
水彩用の筆は、水で絵の具を落として穂先を整えるだけで大丈夫です。立てて乾かすと水が根元にたまるので、寝かせて乾かしましょう。
■まず手持ちの筆を分けてから足りない分だけ買う
ここまでの内容を、そのままやる順番にします。
- 手持ちの筆を、軸の表記でアクリル用と水彩用に分ける。
- 表記が無い筆は水彩用に回す。
- アクリル用が2本に満たなければ、ナイロンの丸筆を買い足す。
- アクリルを塗る日は、筆洗器に水を張ってから描き始める。
アクリル絵の具と水彩絵の具の筆の違いは毛の材質と洗い方の2つだけで、この2つを守れば、どちらの筆も何年も使えます。
最初の1本を固めてしまっても、筆洗液で戻せます。失敗を怖がらずに、まず1枚描いてみてください。
元々は充電式のポータブル電源や電動工具分野の専門アドバイザー。現在はキッチン家電や生活家電、カー用品まで幅広く担当しています。「毎日使うものほど、扱いやすさで選ぶ」が持論。
X(旧Twitter)




