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3-1.「鳥の劇場」による廃校の活用

鳥の劇場オープニングプログラム―4作品上演

1.事業概要

東京・静岡を拠点に活動していた鳥取県出身の演出家中島諒人氏が、2006年1月より鳥取に活動の拠点を移した。恒常的な稽古場・上演場所として、廃校となっている旧鹿野小学校体育館および旧鹿野幼稚園を利用し、2006年は9月から12月にかけて毎月第4土日に演劇作品を上演した。「わかりやすい」「深い」「いっしょに感じ、考える」を基本に、演劇の楽しさを様々な形で提供することを目指して、上演環境の整備、作品創造が行われた。
 公演概要は以下の通りである。鳥取大学地域学部は、劇場空間整備についての支援を中心に、活動に関する情報発信などの協力を行なった。

○会場 鳥の劇場の鹿野劇場(旧鹿野小学校体育館)
    鹿野スタジオ(旧鹿野幼稚園)
○主催 鳥の劇場
○後援 鳥取県、鳥取市、いんしゅう鹿野まちづくり協議会、新日本海新聞社、ノルウェー王国大使館(「人形の家」公演)
○共催 鳥取大学地域学部
○助成 鳥取県文化芸術活動支援交付金、公益信託「とりぎん青い鳥基金」

○9月公演「貴婦人故郷に帰る」
作:F.デュレンマット
演出:中島諒人
2006年9月23日(土)/24日(日) いずれも午後6時半開演
入場者数 23日 152人/24日 110人 計262人(アンケート回収数 96)

○10月公演「人形の家」(「イプセンイヤー2006」関連企画))
作:H・イプセン
演出:中島諒人
2006年10月28日(土)/29日(日)  いずれも午後6時半開演
入場者数 28日 167人/ 29日 112人  計279人 (アンケート回収数 61)

○11月公演「誤解」
作:A・カミュ
演出:中島諒人
2006年11月25日(土)/26日(日)  いずれも午後6時半開演
入場者数 23日 72人/ 24日 120人  計192人 (アンケート回収数 65)

○12月公演 「班女」「葵上」
作:三島由紀夫
演出:齋藤啓(「班女」)/中島諒人(「葵上」)
2006年12月23日(土)/24日(日)  いずれも午後1時及び午後6時半開演
入場者数 23日昼 86人、夜65人/ 24日昼 54人 夜79人  計284人
(アンケート回収数 196)

2.事業の意義と課題

「鳥の劇場」がまとめた「2006年活動実績報告」、4回公演の観客アンケート、鳥の劇場主宰中島氏及びスタッフとの懇談、稽古見学・公演鑑賞をもとに、本事業の意義と今後の課題についてまとめる。
本事業は、主宰者中島氏とそのスタッフの発意により、鳥取という地域で演劇活動を継続しながら、社会において演劇の公共性が広く認められることを目指すという決意で進められてきたもので、鳥取県、鳥取市、地元鹿野町の方々の協力も得て展開されてきた。この事業の特徴は、大きく次の3点である。
〔1〕ひとつの芸術創造集団(劇団)が、地域に拠点を持って活動している。
〔2〕利用目的にかなうよう整備された建物ではなく、廃校小学校(及び廃幼稚園)利用している。
〔3〕毎月1回定期的に作品発表(公演)を行う。
 公民館や文化施設を公演前の稽古時だけ時間単位で借りる、既存の公立ホールを公演時のみ借りる、といった舞台芸術の創造・発表のやりかたとはおのずと異なる成果が、創造者側、観客側に双方に生まれたと思われる。

地域に拠点を持ったこと

来場者の属性を見ると、年齢層は小学生から80代まで幅広い。実際の公演会場の雰囲気も、東京・大阪など都市の小劇場公演が、演目や劇場により、同じような世代、似たような服装の観客で埋まっているのとは違い、多世代、多様な関心の来場者が集っていた。
 来場者は、鳥取県東部を中心に鳥取県内・兵庫県北部が中心で、鹿野町在住の観客も一定程度いる。県外は、東京・千葉・大阪・岡山・高知・福岡から若干名来ているが、圧倒的に地元観客が占める。県内を中心に、幅広い年齢と関心の観客が来場したと言える。
 会場は、公共交通機関を利用する場合、最寄りのJR浜村駅から車で10分とやや不便であるものの、鹿野町の協力を得て、駅と会場の間の送迎が行われた。毎回利用者があり、自家用車を利用出来ない人のための配慮がなされていた。
 観客アンケートに記された公演の感想に目を通すと、演劇を見慣れた観客は少なく、むしろ「生で舞台を見ることがそもそも全く初めて」、という人も珍しくなかった。官民併せて数百もの劇場・ホールがある東京では、毎夜どこかの舞台に足を運ぶことが可能である。1日に二つの公演を見て回ることすら可能である。舞台芸術に触れる機会の格差は、地方と都市のあいだで絶大なものがある。その中で、鳥取の中でも市内中心ではなく敢えて、鹿野町に拠点を置いたことの意義は大きい。アンケートからは、生身の体による表現力に、非常に率直に感動している様子がうかがえる。同世代の、同じような関心の観客を相手に作品発表を繰り返しがちな地方のアマチュア劇団とは違い、現代演劇に無垢な観客へ向かって何をどのように見せていくのか。「鳥の劇場」が地域性、観客層について熟考したうえ、作品選定と演出方法を工夫していったことが、こうした観客の反応を導いたと言えるだろう。

廃校を利用したこと

そもそも小学校は、劇場・ホールと違い、誰もが必ず通ったことのある敷居の低い場所である。たとえ設備的にホール建築には及ばないとしても、独特の劇場空間として、来場者に強い印象を与えていることが、アンケートからも伺える。「懐かしい」「手づくり感がよい」「お金はかけず知恵で工夫されているところが良い」といった意見が散見される。
 学校体育館・幼稚園遊戯室を、快適な劇場空間として整備するには、居住環境(冷暖房、トイレなど水回り設備)はもちろんのこと、劇場に必須の設備の設置(照明、音響、座席,舞台・・・)等、相応の経費と結構な手間ひまが必要となる。しかし、自分たちの演劇活動に馴染むように手を入れて行くに従い、使う側も愛着が強くなったという。中島氏自身、新聞記事(日本海新聞2007年「創造都市鳥取を目指して」)の中でも、長らく使い込む間に廃校の空間が自分の家のように感じられるようになり、単に公演を見てもらうだけではなく、来場者に居心地よく過ごしてもらうよう「もてなす空間」としてプロデュースしたいという気持ちが芽生えたと延べている。
 こうした活動主体側の配慮は、来場者にもよく伝わっていると見え、「駐車場に着いてから、帰るまでが上演の一環と感じる」「愛着感が伝わる」といった意見も見られる。9,10月公演終了後の飲み物サービスと歓談、12月公演でのぜんざいのふるまい、珈琲・パンの販売が行われるなど、観客と劇団、観客相互の交流を促すきっかけとなっている。終演後、そのまま劇場居残り、役者や演出家と語らうところまで含めて、観劇の楽しみとなっているようである。
 他にも、会場へのアクセス方法、受付の対応、開場までの客あしらい、観劇時の寒さ対策、レイトカマーへの対応など、観劇前後の配慮まで、舞台芸術を味わう「劇場」に求められる専門性が、不便な廃校活用の中から際だったと言えるのではないか。

定期的に公演を行うこと

鹿野町に住む来場者は、歩いて気楽に立ち寄れる劇場が近くにある幸せを喜び、また鳥取県東部から毎月車で来場していた女性は、毎月月末は鹿野町へ行くというのが定期スケジュールとなり、春のシリーズまで公演が休みになるのが淋しい、とも語る。独特の雰囲気を持つ劇場空間を作り出し、定期的な活動を継続することによって、鳥取ならではの新しい生活スタイルがうまれる可能性もあるだろう。
 また、鹿野町は、滅多に出かけることが無かったが、毎月1回の公演が楽しみで、遠いと思った鹿野が近くなったという、県内からの来場者の声もある。
鹿野町の町並み、まちづくり、温泉、特産品等との連携を深めて、芸術文化を契機とする観光と交流にも大きな可能性がありそうである。

今後の課題

2007度以降も、鳥の劇場は、旧鹿野小学校での演劇活動を続けていく予定となっている。創造団体の側にとって、恒常的に自由に使える場(稽古場・発表の場)があれば、創作上の積み重ね、観客からのフィードバック、新しい挑戦が柔軟に行える。今後とも、より多くの観客を鳥取から得ていくための、作品創造上の成果が一層期待されるところである。
 また、鳥取に独自の芸術文化拠点として、市民の共感と支援を得ていくためには、劇団「鳥の劇場」の公演の質を高めるだけではなく、演劇のもつ様々な機能を生かした公演以外の活動を県内外の専門家とも共働して行うなど、活動の公共的意義を高めていくような事業を発想していくことが求められる。
 一方、こうした活動にかかる膨大な経費を、創造集団のみが負担するのではなく、市民、行政、企業等による多元的な支援の仕組みを、創造団体と共に議論していかねばならないと考える。
 また、このような演劇活動が恒常的に行われる環境が存在することが、その地域にどのような影響や与えるのか、大学など研究機関と共同してその意義を明らかにし、分かりやすく行政・市民・企業に伝えていくことも今後必要であろう。

3.参考

○中島諒人氏略歴(鳥の劇場ホームページより)
1966年 鳥取県鳥取市生
1984年 鳥取県立鳥取東高等学校卒業
1990年 東京大学法学部卒業
1994年 シアターカンパニー・ジンジャントロプスボイセイを東京を拠点に設立。以後全ての作品を演出。
2003年 9月 舞台芸術財団演劇人会議主催の利賀演出家コンクール2003でイプセン「人形の家」を上演して最優秀演出家賞を受賞。
2004年5月 利賀フェスティバル2004でチェーホフ「かもめ」を上演。とっとりパフォーミングアーツ、韓国ソウルで開催のソウルフリンジシアターフェスティバルに参加。2005年5月 静岡県舞台芸術センターでソフォクレス「アンティゴネー」を演出 8月 高知県立美術館でイプセン「ヘッダ・ガブラー」を演出 9月 ベルリン(ドイツ)とクラコフ(ポーランド)でジャリ「ユビュ王」を上演 12月 静岡県舞台芸術センターでカミュ「誤解」を演出 静岡文化芸術大学非常勤講師(2006年3月まで)静岡県舞台芸術センター所属(2006年3月まで)
2006年より鳥取に鳥の劇場を設立
2006年10月 韓国で開催のBeSeTo演劇祭でカミュ「誤解」を上演
鳥取大学非常勤講師 舞台芸術財団演劇人会議会員

(執筆3-1:五島朋子)

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